2019年4月から、マレーシア国立心臓病センター(Institut Jantung Negara)心臓麻酔・集中治療のフェローとして研修中の高橋京助医師から近況報告が届きました。

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臨床はまだまだ満足いくレベルでコミットできていませんが、生活には大分慣れて参りました。

最初の1ヶ月の勤務がICUでしたので、概要と雑感を報告申し上げます。
当院は心疾患専門施設で成人+小児で年間約4000例の開心術をこなしています。割合としては成人:小児=3:1くらいでしょうか。
成人手術の割合としてはCABGが8割、弁膜症手術1割、大血管手術1割といった感じで日本とは随分と背景が異なります。
CABGはon pump、心停止下で行うのが標準術式のようです。
まだ手術室で仕事をしていないので麻酔管理の詳細はわかりませんが、ルーチンで使用するカテコラミンがアドレナリンとノルアドレナリンというのに衝撃を受けました。
そして日本の心臓麻酔でkey drugであろうドブタミンを見ることはほとんどありません。

ICUのベッド数は外科系成人ICUが30床、成人CCU20床です。
診療形態はsemi closed形式でメインの指示は心臓外科医が出し、集中治療専門医1人とフェロー以下の麻酔科医3人で回しています。
回診の形式はかつての自治さいたまと似ており、当直医がプレゼンしながら指導医と共に1例1例回っていくスタイルです。
30人ラウンドするので8時に回診を始めて終わるのが12時から13時くらいになります。
CCUもカバーしていますが、RSTのような補助的な関わり方です。

ICUでのマネジメントの焦点は呼吸と感染で、循環に関しては心臓外科医の出した指示を尊重しながら適宜修正しています。
最も多いCABG術後患者はclinical pathwayがあり管理がマニュアル化されています。
問題がなければ術後6時間以内に抜管、POD1にICU退室というスピード感です。
こちらでもウィーニングのプロトコルがありPOD#0、1の低リスク症例は医師の許可を得て看護師が抜管しています。
また輸液管理も看護師に任せており、医師の仕事はおおよその目標バランスの設定と利尿薬の処方といったところでしょうか。
栄養やリハビリに関してはコメディカルにほぼ丸投げです。
全ての患者を栄養士や理学療法士が回診してプランを立てているのであまり口を出すことはありません。

総じて症例が多く多忙なので細かいところに目が行き届かず、診療の質としては日本に少し劣る感があります。
しかしコメディカルがかなりの部分をカバーしてくれるので、あまり取りこぼさずに60点をキープしている印象です。
ハイボリュームセンターならではのやり方ですね。
少し気になるのはコードブルーが圧倒的に多い点で、発動しない日の方が珍しいくらいです。
入院患者全員が潜在的に虚血や心不全のリスクを抱えていることを考えると無理もないのかもしれません…。
皆蘇生慣れしているせいか、VT/VFが多いせいか、蘇生の成功率は高いです。

とりとめのない長文になってしまい恐縮です。
何かのご参考になれば幸いです。

高橋 京助